ウエルス・マネジメント:モデル・ポートフォリオの活用が広まる

日本の証券業界では、リテール事業のフィー・ベースへの移行が大きな流れとなっています。一方、既にフィー・ベース・ビジネスが主流の米国では、その付加価値の見直しが喫緊の課題となっており、コスト削減や透明性確保/中立責任などの観点からモデル・ポートフォリオの利用に注目が集まっています。


■ 米リテール証券:事業モデルの再構築
米国のリテール証券業界は、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)約30万人を伍し、個人預り資産の業界合計はUS$20兆ドルを超えている。昨年11月、チャールズ・シュワッブがゼロ・コミッションを発表して以来、各社が追従したことで、現在、米国における個人証券口座総数の90%がゼロ・コミッション扱いになったと推定される。

これまでリテール証券ビジネスにおける顧客口座からの収益源は、主に「証券売買に対するコミッション」と「預かり資産の管理に対するサービス・フィー」であり、今回、前者が消滅したわけだが、後者もコモディティ化の波に晒されており、その中身の見直しが待ったなしの状況にある。


■ モデル・ポートフォリオの活用
これまで、FAが提供するフィー・ベース・サービスの中心は、「顧客別のテーラーメード・ポートフォリオの構築とその運用」であり、FAの業務時間の3割以上を占め、顧客もその付加価値を認めて対価を支払ってきた。ところが、ロボ・アドバイザーの登場やパッシブ投資の注目から個別のポートフォリオ構築/運用に対する価値が低下しており、証券会社は、同じ収益を維持するためには、新たな付加価値(フィナンシャル・プランニングや税務/相続対策など)を顧客に提案/納得してもらう必要があると認識している。ただ、その第一歩として、まず資産管理業務を効率化しFAの活動時間を捻出しなければならない。

その具体策として、これまでFA個人の技量に頼ってきた顧客別ポートフォリオの構築と運用を、証券会社本部やサード・パーティーが提供するモデル・ポートフォリオ利用へ転換する(FAからみればその業務をアウトソースする)必要があるとの認識が高まっている。いわば、オーダー・メードのスーツからイージー・オーダーや既製服への移行だ。

モデル・ポートフォリオそのものは以前から存在していたが、積極的には利用されていなかった。米国の資産運用会社最大手:BlackRockによると、2019年10月時点で全米個人資産の3兆ドル分程度がモデル・ポートフォリオで運用されていたが、今日では倍増しているという。


■ メリル・リンチも積極推進
大手証券会社のメリル・リンチは、FA15,000人を伍し、FA一人当たりのフィー収入は平均100万ドルを越えている。同社では、2018年よりFAに対してモデル・ポートフォリオの利用推進を開始、当初は、本部が構築/管理するモデル・ポートフォリオ125種類だけだったが、昨年秋からはBlackRockやFranklin Templeton、Invesco、PimcoなどThird Party12社が提供するモデル100種もラインアップに加えた。

各モデルは10‐20種のファンドが組み合わされており、預かり資産5万ドルから利用できる。一般的なポートフォリオから各種テーマ投資(ESG、リキッド・オルタナティブなど)、また退職者向けに定期的に一定額を引出すIncome Focusなどもあり、ほとんどのニーズをカバーできるという。FAが顧客ニーズに合わせてポートフォリオを調整できるオプションもあり、結果、同社FAの90%がなんらかの形でモデル・ポートフォリオを利用するようになったという。

日本の証券業界でもフィー・ベース・サービスへの関心が高まっているが、モデル・ポートフォリオを提供する専用部署を立ち上げた大手証券会社も出現している。日米ともども、モデル・ポートフォリオの動向に引き続き注目しておきたい。

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