中央銀行のデジタル通貨発行論議:金融機関はどう向き合うべきか

2009年のビットコイン誕生以来、仮想通貨に関する様々な話題が取上げられますが、アイテグループでも、 2020年7月に発行したレポート「Central Bank Digital Currencies: The Next Chapter in Digital Payments?」で、各国の中央銀行が研究している「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」に関する論議をまとめています。ここではレポートの概要を解説しました。
 

■ 各国のスタンス
中央銀行が発行するデジタル通貨(Central Bank Digital Concurrency:CBDC)は、2015年にイングランド銀行が重要な研究テーマに掲げたことから注目されるようになった。民間が発行するビットコインなどの仮想通貨と違い、CBDCは中央銀行が紙幣や通貨と同等の価値を保証するデジタル通貨である。

中国政府はCBDCの発行を公言し、2020年10月には数万人規模の実証実験を行ったことから、2021年にも正式に発行するのではないかとの観測がある。西欧諸国では、スウェーデン中央銀行が実用化は未定としながらも、eクローナの研究に法律の整備面も含めており先行している印象がある。

フランスはCBDCの銀行間送金の実験を行っており、オランダはユーロ通貨圏での実験国になる意思を表明している。イギリス/南アフリカ/カナダも実証実験の準備を進めているようだ。日本銀行は2021年度の実証実験実施を表明している。一方、米国はドルが国際間決済に使われる機軸通貨であるだけに連邦準備銀行は慎重な姿勢を崩していない。

 

■ デジタル通貨の利用分野と懸念事項
デジタル通貨の利用分野は、大きく二つに分かれると考えられる。

個人が日々の決済にCBDCを利用する(リテールCBDC:以下R-CBDC)最大のメリットは利便性だ。加えて、プリペイド・カードやモバイル決済/デジタル・ウォレット(日本のスイカやLinePay、米国ではPayPalやVenmo、AppleCashなど)においては、事業者に万一のことがあっても滞留資金が中央銀行によって保証されるようになるメリットが考えられる(現状では預金保証制度が適用されず焦げ付きの可能性がある)。

銀行間のCBDC利用(ホールセールCBDC:以下W-CBDC)では、送金先の本人確認や資金のトラッキングが確実に行えるため、企業間送金やクロスボーダー送金において、不正を排除しつつ安全かつ低コストで行えるようになるだろう。

一方、課題も山積みである。CBDCが普及すると個人は資金を銀行に預ける必然性が無くなる可能性があり、銀行預金が減少して銀行の信用創造機能が損なわれるという根本的な問題を指摘する声がある。また、技術的には個人の資金の流れを中央銀行が把握できるため、そもそも民主主義国では普及しないとの意見や、サイバー攻撃を受けて一国が金融危機に陥る危険性を心配する見解もある。その他、想定外の問題が発生する可能性は多々あり、制度設計は慎重に取組む必要ある。

 

■ 金融機関はCBDC論議にどう対応すべきか
各国がCBDCを導入するかどうかは、中国が元の機軸通貨化(W-CBDC)や2022年の冬季オリンピックまでの導入(R-CBDC)の視点から積極的に検討を進めていることから、政治的な影響が強くなっている。中央銀行は、政府の指示があればいつでも導入できるよう研究を進めておくという立場だろう。視点は違うが、昨年の米国大統領選挙では、バイデン候補が弱者対策(銀行口座を持たない所得層)としてのCBDCの可能性に言及しており、ここでも政治色が見え隠れする。

金融機関にとっては、W-CBDC分野(クロスボーダー送金や証券決済)ではメリットが多いと思われるが、R-CBDC分野では、前述のように銀行の本来業務である信用創造が大きく変質、市中銀行と中央銀行の役割が変わる可能性もある。中央銀行がeクローナの研究が進めるスウェーデンでは、銀行業界が金融システムが不安定化するとの懸念の声を挙げはじめた。一方、ペイメント分野では、現在のビジネスがなくなる可能性があるが、新たなビジネス・チャンスが広がる可能性もある。

CBDCは、透明性や課税、フィナンシャル・インクルージョンの視点など良い面も多いが、広く普及するかどうかは、細かな使い勝手(例えば、使いやすいサイバー・セキュリティ対策やオフライン利用、プライバシーとの兼ね合いなど)や現在の業務プロセスからの移行方策、更にグローバルに使えるルール作りなどが重要になると思われる。より良い仕組み作りのためにも、金融機関や流通事業者、テクノロジー企業などが声を挙げる必要があるだろう。

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