在宅勤務の評価と今後の課題

米国でも多数の企業が在宅勤務を続けています。ここでは、在宅勤務に対する現時点での評価と、金融機関における課題を各種報道からまとめてみました。


■ 在宅勤務と生産性
在宅勤務と生産性に関する現時点での認識をまとめると、「生産性が上がるケースが多いが、業務内容や会社のカルチャーによる違いも大きい。また個人によって向き不向きがあり、バーンアウトを防ぐ工夫が必要」ということになるだろう。

まず在宅勤務では、オフィスと同じ業務の遂行スタイルは難しいと認識する必要がある。オフィスと同じように頻繁な打ち合わせをリモート環境でやろうとするとバーンアウトにつながってしまう。仕事のアウトプットを決めて任せるスタイルとすれば、予定よりも早く終了した場合に次の仕事をアサインでき、結果として生産性向上が見込める。多くの企業が「生産性は、最低でもオフィスと同程度、上手くいけば15-20%向上」と認識しているようだ。

ただ、更に踏み込むと、調査検討が必要な状況も見受けられる:
・国別により生産性向上の度合いが異なる(ドイチェバンクではドイツよりもアメリカのほうが生産性向上幅が大きい:理由はまだ不明)。
・社員の緊密なコラボレーションを推進している企業ではあまり生産性が向上しない(オンライン・チケット・サービスのEventbrite社の場合)。
・在宅勤務の当初は、社員自身が生産性が向上したと感じるが、期間が長くなるにつれ生産性が下がったように感じる(Affirmでの現象。ただマネージャーは生産性は特段下がっていないと認識。バーンアウトの兆候か)。Home/Workのバランスが崩れて一時的に生産性が上がった可能性や精神面のケアへのアテンションが必要ということだと思われる。

2013年にスタンフォード大学が行った「在宅勤務と生産性向上に関する研究(比較的簡単な業務に従事する社員1000人を500人づつ2チームに分け、一方を週4日在宅勤務とする)」では、以下の結果が得られている。
・生産性は13%向上したが、4%がDistractionが減るためであったが、残り9%は労働時間が延びるため(ランチ時間が短くなる、病欠減るなど)だった。
・在宅勤務を経験した社員の半数は孤独感が高まりオフィスに戻りたいと感じた。残りの半数は在宅環境を問題なく受け入れた(このグループの生産性は20%向上した)。


■ リテール銀行:店舗戦略の見直し
米国内の銀行店舗は、コロナ・パンデミックを受けて縮退営業が続いており(一部の支店はATMでの営業のみとする/来店はアポイント制にするなど)、一方、顧客はWebアカウントを設定したりモバイル・アプリをダウンロードするなど、デジタル・チャネルの利用が大幅に増加している。行員は支店/本部双方で在宅勤務の割合が引き続き高い。このような環境下、大手金融機関各社は、以下のような観点の見直しを始めている。
(1) 店舗政策
・期せずして顧客のデジタライゼーションが急速に進む中、店舗網の再考が必須となっている。

(2) ハイブリッド・チャネルにおける顧客エクスペリエンスの維持/向上(社員教育)
・現時点では、デジタル・チャネルに関するコールセンターへの問い合わせが増えているが、今後ハイブリッド・チャネル(例:ローンの申込みをコールセンターで受け付けるが、個人データはオンラインで入力してもらい、支払い条件の変更は店頭で対応するなど)の利用が増加すると考えられる。そのため、ハイブリッド環境においてもスムーズなユーザー・エクスペリエンスを提供するためには、行員やコールセンター・エージェントの再教育が必要になると考えられている。

(3) 管理/コンプライアンス/セキュリティ
・リモート・ワークが増加し定着することは必至であり、それを前提としたコンプライアンス・ルールの見直しと専用管理ツールの導入(一部のベンダーは既に発表済み)、更に業務目標の与え方や評価方法などの見直しが始まっている。
・在宅勤務時のシステム環境も、専用PCやモバイル機器の供与に加え、利用時の連続認証やフィッシング防止手段の高度化などが課題となっている。


■ 証券トレーディング業務ではコンプライアンス投資
証券会社でも在宅勤務への移行が行われたが、多くの大手証券会社のトレーディング部門は、仮想デスクトップとソフト・タレット(クラウド・ベースのトレーディング電話)を導入していたため、短時間で在宅環境への移行が可能だった。

また、在宅勤務下でもほぼ支障はなく業務を遂行でき、生産性向上も見られることから、在宅勤務を前提としてトレーディング部門のオフィス・スペース削減の検討を始めた企業も多い。コンプライアンスに関しても、在宅勤務環境を前提とした仕組みの見直しが始まっており、コミュニケーション手段(オフィス電話、トレーディング・タレット、携帯電話、Zoom/Teamsなど)の統合監視やAIを活用した不審な行動の検知などへの投資が進むと想定される。

このように、在宅勤務を後戻りできない前提ととらえ、様々な見直しが始まっている。最終的にはローコストでフレキシブル、かつレジリアンスの高い仕組みが構築されるだろう。在宅勤務にまつわる動向には引き続き注目しておきたい。

(参照)
・アメリカン・バンカー誌 2020年8月10日記事「Are banks prepared for employees to work off-site indefinitely?」
・Risk.Net 2020年8月11日記事「Moonshots shelved: banks spend on home-working tech」
・ブルームバーグ 2020年8月12日記事「Big Brother Is Watching Traders at Home in the Coronavirus Era」
・BBC.Com 2020年7月10日記事「The remote work experiment that upped productivity 13%」
・ニューヨーク・タイムズ紙 2020年6月23日記事「Are Companies More Productive in a Pandemic?」

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