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カスタマー・エクスペリエンスの視点から資産運用報告書を再考する

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ウェルスマネジメントの運用報告書は、これまでは売買の確認のため送られてくる書類でしかありませんでしたが、これを顧客満足度を向上させるツールと捉え直す動きが始まっています。アイテ・ノバリカ・グループでは、2022年10月に発刊したレポート:U.S. Wealth Management Client Reporting: At the Center of the Client Relationshipで、その動向をまとめてみました。

■ 事業の変化とニーズの変化
米国のリテール証券ビジネスは、21世紀に入り金融商品の売買を取り次ぐ仲介ビジネス(コミッション・ベース・ビジネス)から、顧客の資産形成を支援するアドバイス・ビジネス(フィーベース・ビジネス)へと変化してきたが、その変化に合わせて売買報告書の位置づけも変わってきた。

これまでは、報告書と言えば売買内容を書面で通知する法的義務に沿った書類のことだったが、2010年頃からは、株式/投資信託/債券/確定拠出年金など個別商品毎の売買報告ではなく、「顧客の預かり資産全体の運用状況報告」「ベンチマークとの対比」などの視点から報告書が作成され始めた。

現在では、「レポートを見る際のカスタマー・エクスペリエンス」「マーケットの動きにかかわらず満足度を上げる」「顧客とアドバイザーの信頼感拡大に貢献する」などの視点から報告書を捉え直す動きが始まっている。

■ 3つのアプローチ
報告書の進化を進めるにあたって、3つの視点が重要だと考えられている:
(1)アグリゲーション
証券会社では、通常、商品毎にシステムが構成されていることから、報告書も株式/投資信託/債券などの商品別に作成されている。富裕層顧客に対しては、これらを個別顧客毎の資産として捉えなおし、アドバイザーがパソコン上のツールを使ってレポートとすることが一般的であったが、アドバイス・ビジネスがリテール証券事業の中核となってきた昨今、このような仕組みをシステム化し効率的に提供することが求められている。

(2)カスタマイズ/パーソナライズ
規制から生まれた「報告書」だが、運用成果の何に関心を持つかは顧客毎に異なるため、顧客の関心事に沿った報告を提供しないとカスタマー・エクスペリエンス向上につながらない。このようなニーズ(証券会社のニーズ/アドバイザーのニーズ)に対応するため、報告書のカスタマイズを可能にしたり、様々なオプションを用意する「レポート・ツール・ベンダー」が登場してきた。

(3)デジタル・レポーティング
これまでウェルス・マネジメントの主要顧客であった団塊の世代は、書面での報告書を期待しており、デジタル化といってもPDF版を意味していたが、今後は顧客層が次第に若返えることは確実であり、顧客が自ら操作するWebサイトやモバイル・アプリによるインタラクティブ報告書は必須となる。四半期毎の運用状況を5分間のビデオクリップで提供する試みも始まっている。

■ デジタライゼーションによるアドバイス事業の拡大
米国証券会社のアドバイス・ビジネスは、超富裕層/富裕層を対象とする事業から、マス・アフルーエント層/大衆層への普及を目指す段階に入っているが、報告書に求められる内容は、預かり資産額や顧客の年代によって大きく異なることが想定されている。そのため、多数の顧客に対するカスタマイズ/パーソナライズを推進するためには、そのためのシステム・インフラ(各商品のデータをまとめるデータ・プラットフォームやフレキシブルな報告書が作成できるツール)の装備が欠かせないと考えられている。

更に、これら情報提供インフラが整った際には、これを顧客向けプロポーザル作成に結び付けようとの論議も生まれている(例:現在保有している資産をESG投資の視点から見直すプロポーザル作成等)。規制対応から始まった報告書作成が、顧客満足度向上の大きなツールに進展する可能性が高まったと思うがどうだろう。