第三回金融犯罪フォーラム:AIの活用と金融機関同士の協力が必須に

アイテ・グループでは、毎年金融犯罪やマネー・ロンダリング対策に関する「Financial Crime Forum」を開催していますが、3回目となる本年はバーチャル・イベント型式で9月16ー17日に実施されました。そこでの論議内容をまとめたレポートから今年のトピックスを報告します。


■ 金融犯罪フォーラム
本年度の「Financial Crime Forum」は、コロナ・パンデミックのため、9月16ー17日にバーチャル・イベントとして開催、金融機関のお客様700人以上にご参加頂いた。2日間のイベントは、基調講演とパネル・ディスカッション計18回のセッションで構成され、金融機関の不正防止部門やAML部門、また、フィンテック企業、Eコマース企業などから36名に登壇頂いた。

どのセッションでもコロナ・パンデミックを受けて犯罪パターンがどのように変化したかが話題となったが、ここでは注目度の高かった(=参加申込みが多かった)「ミュール口座の摘発」と「ATO(Account Take Over)犯罪の防止策」に関するパネルでの論議をご紹介したい。いずれも「人工知能(AI)によるデータ分析の強化」と「金融機関間の協力関係の構築」が必要だとのコンセンサスになった。


■ 注目される犯罪パターン(1)ミュール口座
金融詐欺やサイバー犯罪グループが、不正資金の受取り/送金など犯罪目的に開設する銀行口座を「ミュール口座」と称するが、(1) 不正に入手した個人情報を使って開設するパターンだけでなく、(2) 本人が悪用だと認識していても対価がほしいために開設する(自分名義の既存口座を利用する)事例や、騙されて開設する(ロマンス・スキームなど)ケースなど様々なパターンがある(日本で問題になった、留学生/技能実習生が帰国する際に銀行口座を買取り、オレオレ詐欺の振込先に利用するケースと同様)。

ミュール口座の検知には、AIを使って口座開設時のBehaviorを正常なケースと比較分析しミュール口座の可能性を把握する方法が用いられ始めた(昨今、新規口座開設もオンライン・セルフサービス化が進んでおり、パンデミックによりオンライン利用を推奨している金融機関が増えた)。また、口座開設直後の利用パターン分析(ATM等での入出金はないが、大きな金額の入金(例えば100万円)があり、直後に大部分(例えば90万円)が送金されるケースは、犯罪の可能性がある)も行われている。

ただ、金融機関各社は、分析手順などの対策が不十分だと認識しており、送金元、送金先の金融機関との連携(例えば、それらの口座がいつ開設されたものか、名義人の電話番号やメールアドレス、入出金以来が来た際のIPアドレスなどのデータ交換)を行い、不正検知の精度向上が必須だとの論議になった。


■ 注目される犯罪パターン(2)口座乗っ取り(Account Take Over:ATO)
顧客のユーザーIDとパスワード情報、暗証番号などを入手し、ATM出金したり残高を他へ送金するなどの口座乗っ取り犯罪(ATO)は、増加傾向にある。コロナ・パンデミック下、顧客サービス向上のため、一日の引出し限度を増額したり、頻度コントロールを緩和していることも影響しているようだ。犯罪者もテクノロジー活用を進め、ID/パスワードの試行作業を自動化している。同じID/パスワードの組み合わせを複数の金融機関で次々に試行するケースも多い。

ATOでも、モバイル機器からの口座アクセスが増えていることから、バイオメトリックス(指紋認証/顔認証)の活用がセキュリティとユーザー・エクスペリエンス両立の観点から有効だとの見方が多い。コールセンターでの声紋認識(本人確認だけなく、同一犯罪者が違う口座の保有者のフリをして連絡してくるケースの摘発)の活用も増えている。また、登録したバイオメトリックス情報が本人のものであるかどうかを、登録後のBehaviorモニタリングで把握する方策が紹介された。


■ コラボレーションの必要性
テクノロジーの活用強化に加え、金融機関をまたがる犯罪防止のためのコラボレーションも喫緊の課題だ。これまで金融機関は、顧客情報の開示には慎重であり、犯罪の可能性があっても口座の開設時期や登録されているメールアドレス/携帯電話番号の外部への公開を禁止しているのが現状だ。情報交換のための法的な裏づけも必要となるだろう。

また、犯罪人が複数の金融機関に対して同じIDとパスワードで不正アクセスの試行を行っている場合、情報共有はリアルタイムでなければ意味がなく、遅れは被害の拡大につながる可能性がある。金融機関間の情報共有体勢がないことに付け込まれているとも言えよう。

犯罪者の新しい手口は今後も常に「進化」すると思われ、金融機関業界全体が様々なデータ共有の基盤整備を行い、これにAIを利用した分析ソリューションを組み合わせることが、今後の犯罪防止策の主流になると思われる。
 

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