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量子コンピュータ: 金融業界での認識と今後の準備

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量子コンピュータ技術は、20世紀には理論でしかありませんでしたが、2010年頃からはハードウエア開発が始まり、2020年頃からは研究者向けの利用が可能となって、将来のビジネスへの影響が論じられるようになりました。ここでは、金融業界における現状認識をまとめてみました。

■ 量子コンピュータの適用分野
量子コンピュータは、量子力学を活用して従来の電子回路では難しい非常に複雑な計算を短時間で実行する仕組みで、2010年頃からは具体的なハードウエア開発が始まり、2020年頃からは研究者向けのサービス提供が始まっている。ビジネス界では、大量のデータ分析や複雑なシミュレーション、AIや機械学習のレベルアップ/スピードアップ等でメリットがあると考えられている。

金融業界でも様々な分野での応用が考えられ、実証実験やベンダーとの共同研究を始めた企業も出現している。現在有望だと考えられている適用分野には以下がある:
・リスク計算の高度化
・ポートフォリオ/ヘッジングの最適化
・ローン審査/オンボーディングのスピードアップ
・ストレス・テストの高度化
・クロスセル機会の発見
・業務プロセスの短縮/スピードアップ
・不正検知/AMLの高度化

■ 早期実用化領域は、リスク管理と暗号化対策?
早期の実用化が差別化につながると思われる分野に、リスク計算や価格算出などシミュレーションを使った予想作業がある。モンテカルロ・シミュレーションが用いられるこれらの作業は、従来型コンピュータでは負荷が高く、時間的な制約から試行するケースが限定される場合が多い。量子コンピュータが実用化されれば、複雑なシミュレーションが可能となり真価を発揮するとの見方が強い。

もう一つは、犯罪者が量子コンピュータを使って暗号を解読してしまうことへの対策である。現在広く利用されている公開キーを使った暗号化の仕組みは、量子コンピュータを使えば短時間に解読できる可能性が高く、まずは、量子コンピュータでも解読できないポスト量子暗号(PQC)への移行が必要となる。多数のサイバー攻撃を受ける米国政府では、既にPQC移行に向けた準備を開始している。長期的には、量子コンピュータを使った暗号技術が確立される可能性もある。

■ 金融機関の現状
大手金融機関では、「量子コンピュータ技術はいつ頃実用化されるのか」「ベンダーはどのような製品/サービスを提供するのか」「どのような業務へインパクトがあるのか」「いつ頃どのような人材を確保しどのような体制を構築すれば良いのか」などを把握すべく、以下のような施策を行っている。
・情報収集体制/R&D部門の設立
・量子コンピュータ研究者とのリレーション構築
・POC実施
・大手IT企業との共同研究(公表されているケース)
  ・IBM Quantum Network Member:JPMorgan Chase, Goldman Sachs, HSBC, PayPal, Wells Fargo
  ・Azure Quntum:NatWest Group, Ally Bank
  ・Amazon Braket:Commonwealth Bank of Australia
・スタートアップ企業への投資(BNP Paribas, Citigroup, Royal bank of Scotland等)

量子コンピュータ技術の発展に加え、金融機関の注力点や体制構築に関しても引き続きフォローしていきたい。

(参照)
・アイテ・ノバリカ・グループ 2021年4月発行レポート「CIO/CTO Checklist for Community Banks and Credit Unions: IMPLICATIONS OF QUANTUM ON TECHNOLOGY ROADMAPS