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退職期を迎えた顧客向けWMサービス:資産取り崩しアドバイス

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フィナンシャル・アドバイザー(FA)の主要業務は「資産運用アドバイス」ですが、運用手段のコモディティ化が進み、また市場ニーズも変化していることから、FAのサービス内容を「退職後の資産取り崩しアドバイス」にまで拡大する必要があるとの論議です。

■ 事業環境の変化
米国では、フィナンシャル・アドバイザー(FA)の役割は、2000年以前は投資銘柄の推奨が中心であったが、21世紀に入ってからは中長期の資産運用管理/ポートフォリオ管理へと変質してきた。更に昨今では、退職後の資産管理全般(資産運用に加え、定期的に必要となる資金の引き出しにまつわるアドバイス)にまで視野を広げる必要性が論議され始めた。背景には、以下のような市場環境の変化がある:
(1)資産運用サービスのコモディティ化
長期に渡って資産を増やすには、リスク許容度に応じたポートフォリオ運用が不可欠だが、パッシブ運用の投信/ETFの普及やモデル・ポートフォリオを活用することにより、資産運用のローコスト化が可能になってきた。FAにとっては、これまでと同じサービスだけでは収益源であるアドバイザリー・フィーが圧縮されてしまう可能性がある。

(2)平均寿命の伸び
WHOの発表によると米国の平均寿命は78歳となり、80歳を超える国も日本の84歳を筆頭に30か国に達している。これは、定期的な収入がなくなる退職時点(65歳前後)から亡くなるまでの期間が長期化していることを意味している。

(3)退職後の主たる収入源は、確定給付年金(企業年金など)から、確定拠出年金(401kなど)や自己資金へ
米国の退職者の場合、これまでは政府の社会保障年金に加え、企業の確定給付年金の受給資格(亡くなるまでの給付が保証されている)を持つ人が多かったが、ベビーブーマー世代(おおよそ現在75歳以下の世代)以降は、社会保障以外は確定拠出型年金や自己資金で老後のコストをカバーする必要がある。このため退職を控えた世代では、健康や医療費への懸念に加え、老後資金が枯渇してしまうことに不安を感じている人が多い。

■ 資産取り崩しアドバイス
これまでFAは、退職期が近づいた顧客に対して「低リスクのポートフォリオへの組替え」「毎月一定額の配当が受け取れるよう、国債などの長期債券を組み合わせて保有する」など資産運用管理の視点からのアドバイスを提供していた。

現在、退職後の期間が長くなるにつれ、定期的な資金引出しニーズを満たしながらも、資金を枯渇させない運用を両立させるニーズが生じている。この実現には、これまでのような資金のポートフォリオ管理に加え、以下のような視点を組み合わせたアドバイスが必要となっている。
・定期的なキャッシュ・フローの確保方策
・厳格なリスク管理(取り返す時間が短い/ない)
・適切な税金対策
・資産継承関連のアドバイス 等

これらの事項は、退職直前/退職後の対処に加え、若年層顧客に対しても、適切なタイミングで適切な準備方策をアドバイスすることが必要となる。

■ 課題は山積みだが、取組みを始めるWM企業も
前述を踏まえたアドバイスの提供には、FAは様々な商品やレギュレーションに対する複合的な知識が必要となる。また、病気や介護、相続などのセンシティブな話題を取り上げる必要があることから、コミュニケーション・スキルの向上も必須だろう。加えて、この分野はベスト・プラクティスがまだ蓄積されておらず、試行錯誤が必要になると思われる。

一部のウェルス・マネジメント企業では、FAに対する研修やアドバイザー・チームのメンバー構成の再検討(顧客の家族構成と合わせることを狙った若年層アドバイザーや女性アドバイザーを加えたチームとするなど)を始めている。そこには、家族全員の信頼を得ることができれば、次世代顧客の確保につながるとの期待もある。今後FAのサービスがどのような方向へ進化していくのか注目される。

(参照)
・アイテ・ノバリカ・グループ 2021年5月発行レポート「Longevity Planning in Wealth Management: DECUMULATION CONUNDRUM