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FRBが金融機関に異常気象ストレス・テスト?を実施

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連邦準備制度理事会(FRB)は、米大手銀行6社に対して気候変動に伴う複数のシナリオを提示し、ローン事業への影響に関する情報提供を求めています(一部では「気候変動ストレス・テスト」と報道していますが・・)。対象金融機関は、Bank of America, Citigroup, Goldman Sachs, JPMorgan Chase, Morgan Stanley, Wells Fargoの6行で、7月末が提出期限となっています。

■ FRBパイロット・プログラム概要
米連邦準備制度理事会(FRB)は、2022年9月に異常気象が金融機関のローン・ポートフォリオや事業戦略にどのような影響を与えるかを大手6行を対象に調査すると発表していたが、2023年に入り、依頼する情報提供の内容詳細:パイロット気候シナリオ分析エクササイズ(Pilot Climate Scenario Analysis Exercise)を発表した。

FRBでは、このプログラムは、毎年実施している「ストレス・テスト(金融機関の資本面での健全性を把握するための制度)」とは異なり、規制当局と金融機関が気候変動にどう取り組む必要があるかを考えるための情報収集だと位置付けているが、「FEDのClimate Stress Test」と報道されているケースもある。今回の情報提供依頼の範囲は、不動産ローン事業関連だけで、トレーディング用の金融商品在庫/カウンターパーティ・リスクやクレジットカード/個人ローンなどは含まれていない。

■ 想定シナリオの中身
FEDが提示したシナリオの概要は以下のとおりで、それぞれのケースに対するローン事業への影響を分析し報告するよう求めている。

<自然災害インパクトに関して(Physical Risks)>
(1)巨大なハリケーンが米国北東部に連続して来襲し、壊滅的な被害をもたらした場合の住宅ローン/商業ビル関連ローンに関する影響
・「巨大ハリケーンの連続来襲」とは、下記の規模のハリケーンが連続して来襲して被害を与えるケースを示している。
  ・100年に一度のクラス(損害保険がある)
  ・200年に一度のクラス(損害保険がある)
  ・200年に一度のクラス(損害保険がない/効かない)
・「北東部(Northeast)」とは、ボストンからニューヨーク、ワシントンDCまでを指し、米国人口の約17%(5600万人)が居住していることから、各行の不動産ローン事業においても大きな割合を占めている。

(2)(1)と同様だが、連続して発生する災害の種類と地域に関しては、各行が独自に前提条件を設定して分析/報告する。
・FEDでは、西海岸での大規模干ばつや、メキシコ湾沿いでの洪水被害などのシナリオを想定しているようだ。

<気候変動対策に伴う社会の変化がローン事業へ与える影響に関して(Transition Risks)>
(3)2050年までに低炭素社会へ移行(NetZero 2050)を達成した場合の影響
・ビジネス方針をどう変更していくか
・ローンを設定する顧客(事業者/消費者)の意識がどう変わると認識しているか

(4)気候変動対策が進まずCO2排出量が増加し続けた(=2080年には地球上の平均気温が3度上昇した)場合の影響
・(3)と同一内容のまとめ

■ 今後の進め方/結果の活用
FEDでは、2023年末までに提供された情報をまとめた報告書を発表するとしている(個別銀行毎の情報は含まない)。FEDでは、この調査は金融機関や金融システムに対するリスクの理解を深めるのが目的であり、金融機関へ新たな行動を求めることはなく、また将来的にストレス・テストに盛り込むかどうかも白紙だとしている。
この施策に関しては様々な意見があり、積極的に評価する識者もいれば、監督官庁の役割を逸脱しているとする「そもそも論」もある。情報提供を求められた6行はいずれもノーコメントだ。政治的にも気候変動対策を法制化すべきかどうかの論議があり微妙な扱いとなりそうだ。

欧州では、オランダ銀行やイングランド銀行が既に同様の調査を実施し、気候変動がもたらす金融リスクに関して金融機関のガバナンスに組み込む必要性が勧告されている。連邦準備制度理事会が打ち出した「Pilot Climate Scenario Analysis (CSA) Exercise」が、今後どのような展開となるか、興味深い。