証券会社のウェルス・マネジメント拡大戦略:職域ビジネスの拡充

米国の証券会社は、企業従業員向けに「確定拠出年金(401k)」や「株式報酬制度」に関する運営管理サービスを提供していますが、昨今、これらを利用する従業員をターゲットに、金融に関連したアドバイスや各種証券/銀行サービスを提供するケースが増えています。背景には、将来ウェルス・マネジメントが必要となる顧客の早期囲い込みや、マス富裕層対応のノウハウ蓄積があるようです。


■ 米国企業が提供する福利厚生サービス
米国企業でも、従業員への福利厚生として様々な付加価値が提供されており、金融に関連したサービスも多い。主要なサービスには以下がある:
・確定拠出年金(401k)=日本の企業型確定拠出年金と同様
・団体生命保険=日本と同様
・健康保険=米国では、民間の保険会社が健康保険を提供しているため、健康保険は福利厚生扱いとなる
・ヘルスケア貯蓄口座(HSA)=米国独自、健康保険の自己負担分に対する非課税積立貯蓄制度。
・株式報酬制度=報酬の一部を株式やストック・オプションで受け取る社員向けのサービス。日本のストックオプション管理サービスに近い。

企業がこれらを社員に提供する場合、それぞれに指定金融機関を設ける。多くの大手証券会社は、確定拠出年金(401k)管理サービスや株式報酬制度管理サービスを提供しているが、これまでこれら職域ビジネスを「戦略的事業」と位置づけるケースはほとんどなかった。


■ 米証券会社が職域ビジネスに注目する背景
昨今、大手証券のウェルス・マネジメント・ビジネス(概ね金融資産100万ドル以上の富裕層を対象)は、安定的な収益をもたらす事業(Cash Cow)だが、今後の大きな成長は見込みづらいと認識されるようになってきた。次のターゲットとなる顧客セグメントは、マス富裕層(概ね金融資産50万ドルから100万ドルの顧客層)で、これまでも参入を試みるケースは多々あったが、顧客が満足しかつ証券会社の収益に貢献できる事業モデルを構築することができなかった。

ただ、ここへきて、デジタル技術の発展やロボ・アドバイザーの広まり、更にデジタル・サービスを使いこなせるミレニアル世代も資産構築を考える年代に達しつつあることから、マス富裕層向けデジタル・ウェルス・マネジメントが成立するのではないかとの期待が高まっている。証券各社は、職域ビジネスを利用している大手企業の従業員は概ねマス富裕層/マス富裕層予備軍であり、役員層や上級管理職は従来型ウェルス・マネジメント顧客として魅力的だと認識するようになった。


■ バンク・オブ・アメリカ・メリル・リンチの " Financial Life Benefit "
メリル・リンチは、長年、富裕層顧客向けウェルス・マネジメント事業とともに、企業顧客へは401k管理サービスを提供している。2020年、同社は、企業従業員向け福利厚生ポータル:Financial Life Benefitsを開設した。これは、メリル・リンチが提供している職域サービスに、各種証券/銀行サービスを組み合わせた、いわば企業従業員向け金融総合SaaSサービスである。現在、提供されている主なサービスは以下のとおりで、まだ本格的なデジタル/ハイブリッド・ウェルス・マネジメントは提供されていないが、今後メニュー拡充を進めると思われる:
・リタイアメント・プラン(401k関連)
・ヘルス・ベネフィット・ソリューション(HSA口座関連)
・株式報酬制度
・従業員向け銀行口座/投資口座
・フィナンシャル・ウエルネス・サービス(各種教育コンテンツと、コールセンター/対人によるアドバイス・サービス)


■ 企業顧客の視点と今後
企業は、証券会社の動きを歓迎しているようだ。米国企業は、福利厚生サービスを「社員の定着を促進するとともに(=自主的な退社を減らす)、高い満足度で働いてもらうための施策」と位置付けているが、アドバイスを含んだ総合金融サービスは「従業員のお金に関するストレス(中長期の積立や老後の資金、ローン返済など)を緩和するサービス」として有効だと考えている。

このように、金融機関の思惑と企業の福利厚生部門のニーズが一致していることから、多くの証券会社が、職域ビジネスを見直して新施策を打ち出しはじめている。今後、普及が進むのか、その動向が注目される。

 

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