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米国ウェルス・マネジメント業界の注目点:マス富裕層顧客と銀行のWM参入

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日本の証券業界では、リテール・ウェルス・マネジメント(WM)事業におけるフィー・ベース・モデルへの転換が大きな課題となっています。米国では、証券会社がWMを重点事業としている点は同様ですが、注力領域は多少異なり「マス富裕層市場」や「銀行のWMサービス参入」が大きな流れとなっています。アイテ・ノバリカ・グループでは、この背景や動向をレポート「Special Bonds That Tie Bank Broker-Dealers to Parent Banksにまとめています。

■ 米国ウェルス・マネジメント市場
日本のリテール証券事業では、事業モデルの転換(=証券売買サービス(売買毎の手数料課金)から、資産運用に対するアドバイス・サービス(預かり資産額に応じたフィー課金)への移行)が大きな課題となっている。一方米国では、フィー課金モデルへの移行は既に一段落しているが、以下の視点から引き続きウェルス・マネジメント(WM)市場の注目度は高い。

(1)マス富裕層へのWMサービスの提供
・これまで、証券会社のWMサービスは、預かり資産額100万ドル以上の富裕層を中心に展開され、マス富裕層(25万ドルから100万ドル)は未開拓だった。
・その背景には、マス富裕層が満足できるWMサービスを提供しようにも、必要なコストを吸収できないとの認識があった。
・昨今、テクノロジーを活用することで、マス富裕層のニーズを満たすサービスをリーズナブルなコストで提供できそうだとの認識が広まった。

(2)富裕層の保有資産は増加している
・100万ドル以上の金融資産を持つ富裕層の保有資産額は、2020年度、グローバルで7.6%、米国では12%増加したと推計されている。
・このトレンドは長期的には変わらないと考えられ、富裕層顧客向けウェルス・マネジメント・サービスは、引きづづき注力すべき事業と位置づけられている。

(3)団塊の世代から次世代への相続額は史上最高となる。
・米国では団塊の世代が保有している個人資産の50%以上(控え目な試算でも70兆ドル以上)が、今後20年で次世代に継承されると推計されている。
・継承先となるZ世代/ミレニアル世代のライフスタイルや投資に対する価値観は、団塊の世代とは大きく異なるため、WM企業各社は、両世代にアピールできる家族包括WMサービスの必要性を認識している。

■ 銀行がWMサービスへの取組みを強化
前述のような市場環境に対して、米国ではWM事業へ取組む銀行が増加している。銀行各社は証券会社と比べて「ブランドに対する信頼感」と「口座数が圧倒的に多い(既に多数の顧客とリレーションがある)」という長所があり、まずは、WM企業の買収/上級職のヘッドハント/新規雇用などを通じて体制の拡充(フィナンシャル・アドバイザー(FA)の増員)を図っている。

例えば、東海岸に1200店舗を展開する全米13位のCitizezens Bankでは、新規採用/社員研修/M&AによるFA増員を実施することに加え、WMに関する問い合わせをしてきた銀行顧客全員に、フィナンシャル・プランニングを無償提供している。5年以内にWM事業の預かり資産を倍増させる計画だ。

既に銀行機能/証券機能を合わせ持つ大手金融機関でも、銀証融合への取り組みを進めている。
・Bank of America Merrill Lynch:銀行口座顧客へのWMサービスを推進すべく社員研修の強化(社内での職種移動奨励)。富裕層対応では、フロリダ州など富裕層が多い地域への集中出店。
・JP Morgan Chase:WM分野の品揃え強化の一環として、ESG投資分野のフィンテック企業OpenInvestを買収。
・CitiBank:WM関連部門をグローバルで単一グループに再編成。FAの新規採用強化とフラッグシップ店舗Wealth Hub開設(シンガポール、アラブ首長国連邦等)。

■ 全部は生き残れない・・
これまで富裕層顧客が中心だったモルガンスタンレーやメリルリンチ等の大手証券も「ダウンマーケット戦略」として既存ノウハウをデジタル・サービスに再構成しマス富裕層攻略を狙っている。以前からマス富裕層に強いチャールズ・シュワッブやフィデリティ証券も、既存顧客(=投信などで退職資金を長期積立てしている)に対して、ロボアドバイザーやハイブリッド型アドバイス・サービス(=デジタル・サービスと人的FAの組合せ)の推進を開始、競争は激しさを増している。
WMサービスの強化を目指す銀行は、証券会社の体制/サービスに追いつく事に加え、既存顧客に関するデータ分析を強化してクロスセルを進めたり、証券会社にない銀証融合デジタル・サービスが必要となるように思われるがどうだろう。