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Wealth & Asset Management Forum参加報告:ウェルス・マネジメントの民主化

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2022年11月9日にニューヨーク市でアイテ・ノバリカ・グループが開催した「Wealth &Asset Management Forum」の参加報告です。筆者が聴講した分科会での論議を中心に米国ウェルス・マネジメントの最新トレンドをまとめてみました。
 

■ イベント概要
2022年11月9日にニューヨーク市でアイテ・ノバリカ・グループが開催した「Wealth &Asset Management Forum」は、2つの全体セッションと12の分科会で構成され、金融機関のお客様を中心に160余名のご参加を頂く一方、金融機関/ソリューション・ベンダー/弊社アナリスト合計40名が登壇して、プレゼンテーションやパネルディスカッションを行った。各セッションのテーマは下記のとおり。

全体会議
(1)ウェルス・マネジメント事業モデルの今後
(2)ベア・マーケット下での投資とフィンテック

分科会(ビジネス・トレンド・トラック)
(1)クライアント・エンゲージメント・モデルの進化
(2)顧客ライフサイクルのデジタル化
(3)顧客向け報告書からデジタル・エンゲージメントへ
(4)データ/データ分析を活用した営業施策とCX向上
(5)ESGを担保するためのデータ活用
(6)アドバイスを通じたリレーションシップの強化

分科会(プロダクト/サービス・トラック)
(1)アセットマネジメント・プロダクトの今後
(2)ダイレクト・インデックシング
(3)TAMPからアドバイザー・プラットフォームへ
(4)代替投資:スケーリングと販売チャネル
(5)プライベート・マーケットの大衆化はいつ?
(6)デジタル・アセット動向

■ アドバイス・ビジネスの拡大
米国のWM業界は、これまで富裕層顧客(概ね金融資産100万ドル以上を持つ顧客)を中心に、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)による資産運用管理やフィナンシャル・プランニングなどのアドバイス・サービス(フルサービス)を提供してきたが、富裕層には届かないマス・アフルーエント層顧客(概ね金融資産25万ドルから100万ドル程度を持つ顧客:多くは働きながら401kなどで資産を構築してきた)にもアドバイス・ニーズがあると認識されている。

これまでは、マス・アフルーエント層にフル・サービスを提供すればコスト割れとなる一方、中途半端なサービスでは顧客が満足しないため、結果的に資産運用や節税策にアドバイスが必要な顧客層でありながらサービスを提供する方策がないというジレンマがあった。昨今、WM企業各社は人的サービスとデジタルを組み合わせた様々なサービスを考案し(人的リソースはオンデマンドでのみ活用する)提供を始めている。ロボアドバイザーやコールセンター活用もその一例だ。

ただ、どのようなサービスをいくらで提供すればマス・アフルーエント顧客のニーズと合致するのか、正解は分かっておらず、パネリストから様々な考え方や視点が提起され論議が行われた。価格体系を工夫したり、データ分析で顧客の思考パターンや行動パターンを分析して推奨を行うなど、各社の試行錯誤が続いている。

■ サービスの多様化を支える新商品群
WMサービスを支える金融商品の視点からは、「Direct Indexing」と「代替投資」の論議を聴講した。ダイレクト・インデックスは、インテックスに準じながらもフレキシブルな投資が可能となる手法で、ESG投資に関心の高いミレニアル世代/Z世代の資産額が増加するにつれニーズが高まると想定されている。

一方、未上場株/コモディティ/不動産/ヘッジファンド・PEファンドなどへの投資(代替投資)は、リスクが高く流動性も低いことから、これまで機関投資家や超富裕層顧客向けの金融商品と考えられてきた。昨今これらを組み入れた投信やETF、Fund-on-Funds、また未上場株のセカンダリー市場などが生まれ、一般の投資家でも投資対象として検討できる環境が整ってきた。ただ、昨今の仮想通貨市場のように、マーケットが大きく動く可能性もあり、大衆化の第一歩を踏み出した段階だと言えよう。

■ 2023年の動向予想
最後の全体セッションでは、フォーラム全体を通じて「米国のウェルス・マネジメント業界は「カスタマイズ」「パーソナライズ」「選択肢」を提供するため、デジタル・トランスフォーメーションが進行中」とのまとめがなされ、登壇者/参加者も納得の表情だった。

2023年に関しては、「イノベーション成熟する年になる」との意見に賛同が多かった。これまでデジタルを活用したウェルス・マネジメントに関する様々なアイディアが出され、トライアルや製品化が進行中だが、2023年には「どれが広まるのか」「何が使えるのか」「生き残るのはどれか」が見えてくるのではないかと思われる。デジタルを活用することで「民主化(democratization)」が進むウェルス・マネジメント・ビジネスの動向を引き続きフォローしておきたい。