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スタンダード・チャータード銀行:コアバンキング・システムのクラウド移行

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50か国以上で個別に稼働しているコアバンキング・システムを統一し、更にクラウド移行するプロジェクトを推進しているスタンダード・チャータード銀行の話題です。一部の国ではクラウド版への移行が完了しています。
 

■ スタンダード・チャータード銀行の歴史
1853年にイギリスで設立されたスタンダード・チャータード銀行(以下SC銀行)は、旧イギリス領のアフリカやアジア諸国の支店網がビジネス基盤となり、59か国/800支店を展開するグローバル金融機関である(総資産8000憶ドル:世界ランキング40位(2020年))。イギリス国内支店はない)。現在のビジネスの中心はAPAC(65%を占める)で、香港では香港ドルの発行銀行の一行でもある。シンガポール政府系ファンドのテマセク・ホールディングスが筆頭株主となっている。

事業内容は、法人顧客に対するトランザクションバンキング/キャッシュ・マネジメント/トレードファイナンス/多国間多通貨の外国為替業務など包括的なコマーシャル・バンキング・サービスが中心だが、個人向けにはリテールバンキング/ウェルス・マネジメントも提供されている。
 

■ システムの標準化とクラウド移行
SC銀行のコアバンキング・システムは、各国個別に導入されてきた結果、30種類ものシステムが利用されていたが、21世紀に入りコアバンキング・プラットフォームを統合する論議が始まり、2015年頃からはクラウド活用戦略と相まって以下の方向性が示された。
・クラウドで稼働するコアバンキング共通プラットフォーム:Atlasを構築する(自社開発)
・各国のシステムは、Atlasを活用してユーザー・インターフェースを統一した上で、各国の言語対応/レギュレーション対応を行う(85%程度を共通化できたとしている)。
・クラウド移行は、コアバンキングを最初に実施し移行ノウハウを習得することで、他の業務のクラウド化の弾みをつける。
・2025年までに、コアバンキングを含めた全業務の50%以上をクラウド環境へ移行する。

2020年に最初のクラウド版Atlasが稼働、2022年9月時点で10か国がクラウドで稼働しており、2023年末までに42か国がAtlasへ移行する計画だ(明示されていないが、顧客データの国内保持義務を課す国も多いことから、オンプレミス版Atlasへの移行も含んだ計画と思われる)。
 

■ オープンAPIとクライアント・ダッシュボード
コアバンキング・プラットフォームがAtlasへ移行することで提供可能となったサービスに「Data Dashboard」がある。SC銀行の顧客には欧米の多国籍企業が多く(自国外の)海外拠点をすべて同行に依存しているケースもある。顧客企業は、ダッシュボード経由で取引のあるすべての国の全データにアクセスできることから、各国毎/地域毎/グローバル全社など、様々なレベルでのキャッシュ・マネジメントが可能となった。

ダッシュボードには、他行データを取り込むAPIも付加される予定で、SC銀行と取引のない国も含めたキャッシュ・マネジメントが可能になるとしている。また、APIを利用するデベロッパー向けには、フルセットのAPIがマーケットプレースとして提供されるという。

SC銀行は、160年前に創業した歴史のある金融機関だが、次の160年を睨んだ事業戦略の土台として「クラウド移行+オープンAPI」を推進している。同行の動きに引き続き注目しておきたい。