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ネオバンクがもたらした新たな金融サービスとその影響

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ネオバンクと呼ばれるフィンテック企業が登場して10年が経過しましたが、「モバイル中心」「店舗なし」「卓越したユーザーエクスペリエンス」「ローコスト」などの特徴は、リテール・バンキング・サービスに広く浸透してきています。その状況をまとめてみました。

■ ネオバンクの誕生と米国の現状
米国では、2009年頃よりMoven/Simple/Chime等、モバイル・アプリを中心に据えミレニアル世代をターゲットとしたネオバンクが登場した。2015年頃からは、欧州でもチャレンジャーバンクの名称でRevolut、Monzo、N26などが生まれた。いずれもデジタル活用と店舗を持たない体制でローコスト・オペレーションを実現、大手金融機関に不満(多くは高額の各種手数料課金)を持つ顧客層の取り込みを狙った。

2022年現在、米国におけるネオバンクは60社程度、口座数は3000万口座と考えられている(統計データがないため諸説ある。グローバルでは250社程度)米国のリテール・バンキング市場を俯瞰すると、ネオバンク型サービスを提供する金融機関は、以下3種類のパターンに分類できる。
(1)ネオバンクとして創業したフィンテック・ベンチャー企業・・・Chime、Current、VeroBankなど(買収された企業もある)
(2)金融機関(ノンバンク)がデジタル技術を活用してリテール銀行事業に新規参入したケース(店舗がない):Discover Bank、Ally Bank、Marcus by Goldman Sachs、Synchrony Bankなど
(3)既存銀行が別ブランドのデジタル・バンクを設けたり、モバイル・アプリを大幅に強化したケース:Capital One360、JPM Chase、Bank of Americaなど

当初は(1)ベンチャー企業中心で始まったネオバンクだが、次第に人材や資本力でまさるノンバンク系(2)が追い付き、現在では(3)既存大手銀行も次世代顧客獲得のため追従する構図に発展したと考えられる。ここでは、(1)(2)(3)を総称し「ネオバンク・サービス」として話を進める。

■ 注目度の高いサービスは何か?
ネオバンク登場の背景にあったオーバードラフト・フィー(口座残高以上に小切手を振り出したり、クレジットカードを限度額以上に利用しようとした場合に課金される)やATM利用手数料(他行ATM利用の場合の手数料)は、既存金融機関も含め値下げや無償化が進展してきた。それ以外では、以下のような差別化施策が登場している。

(A)高金利貯蓄口座
2022年5月現在、大手行の貯蓄口座の金利は0.01-0.02%程度だが、(1)(2)各行は軒並み0.60%以上を提供している(12か月定期預金の場合は1.20%以上となっている)。

(B)自動貯蓄サービス
毎月一定額を貯蓄へ回す「天引き貯金」は、以前からあったが、強制されるイメージを弱めたアプローチによる差別化競争が起こっている。例えば:
・おつり貯金:トランザクション毎に1ドル未満の端数を貯金に回す
・ルールベース貯金:条件に合致した場合(コーヒーを買った/雨が降った/xxへ行った等)一定額を貯金する
・アルゴリズム貯金:データ分析により天引き額を決定するサービス

(C)デジタル・サポート
ネオバンク・サービスは、店舗がない/利用できない前提のため、コールセンターやオンライン・サポートが重要となる。24/7で利用できるFAQ/検索機能やチャット・ボットのレベルアップが行われており、ユーザー・エクスペリエンスの向上とコールセンターの(人的)負荷削減の両立が進んできた。

その他、日本と環境が異なるが、「給与前借りサービス(米国では2週間毎の給与支給が一般的だが、給与振込み予定日の2-3日前から一定額を引き出せるサービス)」や「クレジット・ビルダー(クレジット・ヒストリーが無く/短くクレジットカードが作れないアンダーバンク層に対して、低額を融資して返済履歴を作成するサービス(返済の実績が生まれることでクレジット・スコアが向上する))」などもネオバンク・サービスの差別化施策となっている。

■ 既存金融機関への影響
ネオバンクの登場により、既存金融機関も提供する商品/サービスを見直し、かつCX向上のためのデジタル投資を引き上げなければならない状況となった。前述のとおり大手金融機関(=米4メガバンク)は追従の方針を打ち出しているが、苦しい立場に立たされているのがトップ4行以下の中堅銀行で、支店網を維持しつつ手数料引下げやテクノロジー投資を継続しなければならない。

2019年にBB&Tと SunTrust銀行が合併して誕生したTruist銀行(合併後に全米第六位)や、全米第五位のUS BankがMUFG傘下のUnion Bank買収を発表したのも(現在承認待ち)、背景にはネオバンク・サービスを強化するために「規模」が必要との認識があるものと考えられている。ネオバンクの誕生に端を発した米金融業界の動きに引き続き注目しておきたい。