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生命保険会社:レガシーシステムの全面クラウド移行は現実的か

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クラウド・コンピューティングの活用が広まるにつれ、レガシー・システムへの依存度が高い生命保険業界でも、クラウドへの移行を検討する動きが増えています。アイテ・ノバリカ・グループでは、保険会社に加えて、クラウド・ベンダーやシステム・インテグレーターの意見も踏まえ、昨今の認識をレポート「Transition to 100% Cloud: Is 100% Cloud a Viable Strategy for L/A/B Insurers With Legacy Infrastructures?」にまとめてみました。

■ 生命保険会社のレガシー・システム
生命保険業界では、銀行業界や航空業界などとともに早い段階からメインフレーム・システムを基幹業務システム(PAS:保険契約管理システム)に導入したこともあり、今日でもレガシー・システムへの依存度が高い。加えて、生命保険業務はデータの利用期間が非常に長い(契約から死亡まで)ことも重なり、生命保険業界グローバル全体でCOBOLだけでもソースコード7500億行分が稼働していると推計されている(加えてアセンブラーやRPGによる業務、その前提となるシステム環境(VSAMやCICS等)等もある)。

ただ、最新のテクノロジー(データ管理や人工知能によるデータ分析など)は、クラウド基盤を前提にしているケースが多く、この先、レガシー・システムでは最新技術のメリットを享受しづらくなると考えられている。また、新しい人材は、当然新しいテクノロジーに関する教育を受けており、レガシー・システム向けの人材確保は難しくなるだろう。一方、企業経営の観点からは、データセンターを廃止したいとの意向が強まるケースが増えている。

■ クラウド導入に関するアプローチとそれぞれの課題
生命保険業界で検討/実施されているクラウド導入には以下のようなアプローチがあるが、それぞれ一長一短がある。

(1)新規業務をクラウド環境で開発
新たに企業向け団体生命保険事業を始める場合、メインフレームのPASはそのままだが、新規部分をクラウドで開発した保険会社がある。ただ、レガシー・システム側にもシステム接続用の修正が必要となり、クラウド利用に関するその後の展望が開けるわけではない。

(2)PASシステムの段階的な移行
レガシー・システムの更新と同時に、保険契約管理に関するビジネス・プロセスを見直そうとのコンセンサスがあれば、PASの段階的移行は実行可能なアプローチであろう。請求業務やクレーム処理などから業務プロセスの見直しとレガシー・システムの更新(外部ソリューションの場合もある)を始めた保険会社がある。

レガシー・システムに関して同じ悩みを抱えているPASソリューション・ベンダー(主に中堅生保向け)は、このアプローチでクラウド化を開始しているケースが多いが、苦労しているベンダーもあり、短期的にコスト高になった事例もある。いずれにしろ、クラウドの特徴を生かしたビジネス・プロセス/システム・デザインなしには、メリットは享受しづらい。

(3)コード・コンバージョン
COBOLのソースコードを入力しJAVA等のソースコードをアウトプットする自動化ツールは多数存在し、その精度が上がったとの見方もあるが、生保会社とシステム・インテグレーターともども、アウトプットされたコードはクラウド用に最適化されている訳ではなく、無理が多いアプローチとの認識だ。

(4)データセンター廃止に注目したアプローチ
レガシー・システムのコードをそのままクラウドへ移行する(最適化されていないことには目を瞑る)アプローチや、レガシー・システムをサードパーティーにアウトソースするアプローチもあり、短期的には目的を達成できるが、長期的には問題を引きずるだけでなく、別のリスクを抱えてしまう可能性もある。

■ 現段階での結論
アイテ・ノバリカ・グループが2022年度に実施した調査では、米国の生命保険会社の90%以上がクラウド環境への移行を考えていると回答しているが、その手段に決定打がないのも現実だ。だたレガシー・システムの利用を続けるだけでは、長期的なリスクが高まることも間違いないだろう。

注目すべきは、前述(2)のように段階的な移行を始めている生命保険会社やソリューション・ベンダーの動向だろう。また、クラウド・ベンダーは、レガシー・システムの移行は大きなビジネス・チャンスと考えているため、今後、移行のハードルを下げる新しいテクノロジーが登場する可能性もある。移行をサポートするシステム・インテグレーション企業も含め、各社の動向に引き続き注目しておきたい。