スペシャルティ保険部門のシステムをクラウド化:ハートフォード保険

大手損害保険会社のハートフォードが、スペシャルティ保険部門(会社役員保険/航空保険/信用保険など特定リスクを対象とした保険)のシステムを9か月で全面クラウド移行した話題です。同社では、ここで得たクラウド移行に関するノウハウを全社に展開したいとしています。アイテ・ノバリカ・グループでは、保険業界のIT活用事例を「Insurance Technology Case Study Compendium 2021: IT Practice」にまとめました。
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■ スペシャルティ保険事業の拡大とシステム課題
米国の大手保険会社ハートフォード保険は、2010年代、リストラクチャリングの一環として生命保険事業を売却する一方、損害保険事業を拡充するため、スペシャルティ保険に特化したナビゲーター・グループを21億ドルで買収した(2018年)。この結果、システム面では、自社のスペシャルティ保険部門とナビゲーターのシステムを統合し、セキュリティ対策も全社統一ガイドラインに合致するようアップグレードする必要が生じた。

これまでハートフォードのクラウド・コンピューティング活用はシステム開発に限定されていたが、本番環境のクラウド化も論議されていた。そこでスペシャルティ保険部門のシステム統合を、クラウド移行/本番稼働の「実験プロジェクト」として取り組み、移行/運用ノウハウを獲得することが計画された。


■ クラウド移行の進め方
クラウド移行プロジェクトは2019年初にスタート、システム統合の第一ステップとして双方の現行システムをクラウドへ移行することが計画された。移行方式の決定やパイロット・テストの実施を経て、2019年7月からクラウド上での本番環境構築とクラウド移行作業を開始、9か月後の2020年3月に全移行を完了した。

クラウドはアマゾンAWSを利用することとし、AWSのクラウド・ファウンデーションとEC@/EBSを中心に、AWSが提供する運用環境(クラウド・トレイル/コントロール・タワー/AWS Lambda/クラウド・ウォッチなど)とサードパーティーが提供するツール(Sumo Logic/Ansuble/Dynatraceなど)を併用している。

プロジェクトの実施に先立ち、同社では今後のクラウド利用拡大を見据えたクラウド・テクノロジー・チームを創設、クラウド利用の核となる人材を外部から採用している。併せてコンサルティング会社Slalom社のAWS移行サポート・サービスの支援も受けた。


■ 取得した移行ノウハウを全社展開
ハートフォード保険では、スペシャルティ保険の部門システム(アプリケーション90種/データベース6種)を全面クラウド移行したことで、システム・インフラ・コストが10-15%削減できたとしている(部門データセンター3か所の廃止を含む)が、それ以上にクラウド移行/クラウド本番運用のノウハウを取得できたことが大きいとしている。

米国の大手企業では、クラウド・コンピューティングに限らず、全社の「実験プロジェクト」として一部のシステムに新しいテクノロジー(RPAやアジャイル開発など)を導入、そのノウハウを全社展開する動きがしばしば見受けられる(「Center of Excellence」などの部門名称が使われることも多い)。大手企業による新テクノロジー導入本格化の動きを引き続きフォローしておきたい。

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