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仮想通貨取引の透明性を高めるデータ分析プラットフォーム:Inca Digital

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仮想通貨取引は「匿名性が高く不正の温床になりうる」との認識が一般的でしたが、透明性を確保するため公開されている取引記録などをアグリゲーションする各種テクノロジーが登場しており、仮想通貨は、公正な投資対象/送金手段になりうるとの認識も高まりつつあります。アイテ・ノバリカ・グループでは、仮想通貨の取引に関する広範囲なデータを集めてワンストップで提供するフィンテック企業Inca Digitalを本年発刊したレポート:Capital Markets Fintech Spotlight: Q4 2021で取り上げました。

■ インカ・デジタル社のサービス(NTターミナル)
2017年創業のInca Digitalは、仮想通貨の取引に関連する様々なデータと分析ツールを提供するフィンテック企業だ。創業者のZarazenski氏とDmitriev氏は、国際刑事警察機構でオープンソース・インテリジェンス(合法的に入手できる情報を収集し、突き合わせて解析することで、情報の新たな意味を引き出す諜報活動手法)を担当していたが、この手法を仮想通貨関連データに適用して事業を開始した。

同社は、世界各地の仮想通貨取引所からビットコイン/リップル/イーサリアムなどすべての仮想通貨のマーケット・データ(価格情報)を収集するとともに、テクニカル・データ(ブロックチェーンの取引記録(支払額/送信者アドレス/受信者アドレスを含む)を組み合わせて、全世界の仮想通貨取引の全貌を把握する仕組みを構築した。加えて、SNS等にポストされる仮想通貨取引に関する様々な情報(非定型データ)も収集、これらのデータを正規化して各種分析ツールとともに提供する。ユーザー独自のデータや分析手法を組み合わせることもできる。

■ 用途とユーザー
Inca Digital社では、以下のようなニーズを想定、業界毎にデータと分析ツールを組み合わせたパッケージ・サービスを提供している。
(仮想通貨取引に関する用途)
・ファンドマネージャー/マーケットメーカー向け:リアルタイム・マーケットデータ/ヒストリカル・データから仮想通貨取引の実行と取引手法の開発/バックテスト用途
・カストディアン向け:KYC/AMLの精度向上、時価評価計算、不正行為発見
(オープンソース・インテリジェンス用途)
・金融レギュレーター向け:マネーロンダリングや制裁回避などの可能性がある不自然な取引の発見
・国防諜報機関/警察向け:仮想通貨取引とランサムウエア/マルウエア/フィッシングなど犯罪との関連の調査や犯罪ネットワークの摘発/資金の押収
・損害保険会社向け:ランサムウエア保険のリスク管理/リスク評価

最新の顧客リストには、以下のような企業名が上がっている。
・CFTC(商品先物取引委員会)
・CBOE(シカゴ・オプション取引所:ビットコイン先物を上場)
・Fidelity(カストディ・サービス)
・FTX(仮想通貨海外取引所)
・国防総省 など

■ 今後の発展
投資商品としての仮想通貨は、これまで個人投資家向けとの認識が強かったが、市場の拡大を受け機関投資家もアセット・クラスの一つとしてポートフォリオに組み込む姿勢を見せはじめている。ただ取引価格や取引手法がレギュレーションに則していることを裏付けるため、ワンストップで仮想通貨取引にまつわる様々なデータにアクセスでき、分析ツールも提供されるInca Digital社のようなサービスが歓迎される可能性は充分に高い。

また、仮想通貨送金に関する不正利用防止/不正摘発の観点からは、取引経路をトレースできる仕組みは、仮想通貨エコシステム全体の透明性向上に貢献すると考えられ、広く普及するかどうか注目される。インカ・デジタル以外にも、この分野で実績を挙げ始めた企業や、新たに参入する企業も出現している。仮想通貨/ブロックチェーン関連のデータ・アグリゲーション・ビジネスの今後に注目しておきたい。