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福利厚生としてのフィナンシャル・アドバイスとソリューション・プロバイダー

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米国では、2015年頃から普及が始まったロボ・アドバイザー(デジタル・サービス)に人的アドバイスを組み合わせるハイブリッド・アドバイザー・サービスが登場していますが、その推進チャネルとして職域マーケットが注目されており、大手証券会社も参入の構えです。ここでは、この分野の概要とフィンテック・ベンチャー事例をレポート:The Promise of Financial Wellness: The Battle to Deliver にまとめています。

■ 企業が社員のフィナンシャル・アドバイスに取り組む背景
調査によると、米国では国民が日々ストレスを感じる/不安に思う要因は「お金にまつわる心配」が回答の50%以上と第一位を占め、「仕事に対する不安」や「家庭での心配事」(いずれも20%以下)を大きく上回っている。若年層は学費ローンの返済や毎月のキャッシュ・フローの心配、働き盛りでは住宅購入や子供の学費(米国の大学の学費は、500万円/年間以上が多い)、退職期が迫った年代では、退職後の生活資金だ。金融危機後の社会の変化やコロナ・パンデミックがストレスを加速させている。

企業は、これまで社員の福利厚生サービスとして、401kなどの退職プランや健康保険(米国の健康保険は民間保険で、企業は保険料の一部を負担するため福利厚生と位置づけられる)HSA口座(税優遇の医療用貯蓄口座)、団体生命保険、ストックオプションなどを提供してきたが、社員の家族構成や個別事情に合わせたフィナンシャル・アドバイスが必要だと考え始めている。金銭に関するストレスを低減できれば、社員が落ち着いて仕事に専念、生産性向上や転職の防止につながるとの理解だ。

■ 職域フィナンシャル・アドバイス・マーケット
このような企業の福利厚生に対する認識を受け、様々な企業が職域向けフィナンシャル・アドバイスの提供を始めている。企業に福利厚生サービスを提供している401k管理会社/健康保険会社/生命保険会社などに加え、デジタルやハイブリッドでFinancial Wellness/Financial Adviceを提供するフィンテック企業も多数登場している。また、既存金融機関(ウェルス・マネジメント企業/銀行)も、この分野への参入を開始した。

ビジネス・モデルも様々で、ファイナンシャル・アドバイスを有償サービスとして提供するケースもあれば(コストは企業負担のケースと社員が一部負担の場合もある)、既存サービスの付帯サービスとしての無償提供、アドバイスに基づく商品販売から手数料を得る場合、デジタル・ツールの利用料金などの名目もある。

■ BrightPlan(ブライトプラン)のソリューション
2016年創業、2019年にサービス・インしたフィンテック企業:BrightPlanは、RIA(受託者責任を持つアドバイザー)の資格を持ち、デジタル・ツールと人的アドバイザーによるハイブリッド・フィナンシャル・アドバイスを提供する。販売チャネルは、企業の福利厚生サービスで、企業との契約を通じて個々の社員にアドバイスを提供する。現段階では従業員1000人以上の企業が対象で、各企業の従業員20-30%が同サービスを利用しているという。2021年5月現在の利用者合計は6万5000人で、顧客満足度は非常に高い。

同社のサービスは、その企業が社員に提供している401kや健康保険/HSA口座など福利厚生サービスに合わせてカスタマイズされ、アプリによる「金融教育」「家計簿機能(予実対比:フィナンシャル・ウェルネス)」「自動積立」「投資ゴール設定と運用/管理(フィナンシャル・プランニング)」などに加えて、人的アドバイザーとのミーティングが提供される。自身が利用する金融機関との連動や名寄せも可能だ。今後、ロボアドバイザー機能の強化や相続アドバイスを検討中だという。

職域マーケットにおけるフィナンシャル・アドバイスの提供は、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチやモルガン・スタンレーなどの大手証券会社も参入を公表しており、マス富裕層/マス層が中心となるだけに様々なハイブリッド・ソリューションが登場するものと思われる。この分野の動向に注目しておきたい。