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クラウドでデリバティブ取引のリスク管理

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デリバティブ取引を行う金融機関/セルサイド企業では、新たに強化されるレギュレーションに対応するため、フレキシブルなクラウド・コンピューティングを活用してリスク管理をレベルアップする動きが始まっています。アイテ・ノバリカ・グループでは、グローバル金融機関に対するヒアリング結果を中心に、その取組みをレポート:To Cloud or not to Cloud: Factors influencing decsision-making at banks をまとめました。ここではその概要をご紹介します。

■ クラウドの発展と認識の変化
クラウド・コンピューティングが登場して約15年が経過した。当初は、手軽で便利だがセキュリティ面やパフォーマンス管理で問題があると認識されていたが、様々な改善が進み、昨今では米国の諜報機関がクラウド環境を利用するなど「セキュリティ面でクラウドのほうが安心」と認識されるまでになった。金融業界でも小規模プロジェクトでクラウドの利用経験が積み重ねられ、銀行がコアバンキング・システムをクラウドへ移行するなどの事例も登場している。

■ リスク管理分野のクラウド利用
リスク管理の分野では、バーゼル委員会が、2023年1月からデリバティブ取引に関する新レギュレーション:トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)を施行する予定だ。金融機関は、FRTBに対応するために多量のデータを使った複雑なリスク計算を素早く行う必要があるが、一部の大手金融機関では、スケーラビリティ/フレキシビリティにすぐれたクラウド環境を使って、XVA(複合的な評価調整)を含めマーケット・リスクの総合的な分析管理のレベルアップを計画している。

レギュレーションに基づいたリスク計算を迅速に行えれば、レギュレーションの要件を満たしながら適正なプライシングを素早く行え、スピーディーなヘッジも可能になる。リスク管理システムをクラウド移行した金融機関はまだごく一部(10-20%程度)と推定されるが、先行メリットがあるとの意見もでている。

■ 更なるクラウド活用も
大手金融機関を中心にデリバティブ取引とそのリスク管理業務のクラウド移行が計画される中、中堅金融機関にも先進事例を参考にクラウド利用を進めたいとの意向がある。今後は、ポスト・トレーディング業務(清算処理/決済など)も、フロント/ミドルとシステム基盤をそろえるためクラウド移行を進める可能性もある。

更に、リスク評価に天候リスクを含めるためのクラウド利用計画(HSBC)や、バイサイド企業に対するデータ・ユーティリティ・サービスをクラウド環境で提供するアイディア(Goldman Sachs)もある。セルサイド金融機関のビジネス環境は必ずしも「良好「とは言えないが、それが少ない先行投資でスタートできるクラウド利用を促進している面もある。金融機関のクラウド・コンピューティング活用に引き続き注目しておきたい。