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アマゾンが提供する金融関連サービス

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米国では、テクノロジー企業/流通企業が銀行免許を取得するハードルが高いため、各社は金融機関との提携による金融サービスを推進しており、金融機関もそこに新たな事業機会を見出しています。 ここではアマゾン・ドットコムの近況をまとめてみました。

■ 金融サービスを提供する狙い
アマゾン・トッドコムの金融サービスは、消費者に対しては「便利なサービスを提供してスティッキネス(粘着性)を高め、より多くの商品を購入してもらえるよう」、一方、マーチャントに対しては「便利なサービスを低い手数料で提供し、アマゾン・プラットフォームを使ったビジネスを拡大できるよう」との視点で考案されている。ただ米国では、流通業/テクノロジー企業による銀行免許の取得が難しいことから、各社は、金融機関との提携によりサービスを展開している。
 

■ 消費者向け決済サービス
米国のアマゾン・ドットコム・プライム会員は、2021年末で約1億5000万人と推計され、うち約15%(約2200万人)がアマゾン・プライム・クレジット・カード(VISA)を保有していると考えられている。同カードは、JPMチェース銀行によるコブランド・カードで、アマゾン・サイトで利用すると5%のリワードが付与される(その他、ガソリン・スタンド/レストランでのカード利用には2%、それ以外は1%)。アマゾン傘下のスーパーマーケット:ホールフーズでも、5%アワードが適用される。

Amazon Prime Visa Cardと並行して、アマゾン・サイトでのみ利用できるアマゾン・プライム・ストアカード(リワード5%)もあり、こちらはシンクロニー銀行が発行している。興味深いのは、クレジット・ヒストリー不足でカードを取得できない顧客には「Secured Card($100以上のデポジットが必要となるカード)」が発行される点だ。当初12か月の利用状況に問題がなければ、通常のストアカードにアップグレードされる。ローエンド顧客の囲い込み戦略として効果をあげているようだ。

更に、消費者がアマゾンに登録した決済情報(支払い手段や配達先情報)を、アマゾン以外のECサイトでも利用できる「Amazon Pay」もある。こちらは、2019年にペイメント・プロセッサー最大手のWorldPayと提携、利用できるECサイトが拡大した。Amazon Payは、アマゾン・エコシステム拡大の取組みであり、将来はPayPalなどとの競合が生じるかもしれない。また、2021年8月には、BNPL大手のAffirmと提携し、手数料なしの4回払いも可能となっている。
 

■ マーチャント向け金融サービス
アマゾン・マーケットプレイスに出店するマーチャント(500万社)には、2011年から融資サービスが提供されている。これまでバンク・オブ・アメリカなど複数の金融機関と連携してきたが、現在はゴールドマン・サックス銀行(GS)が提供するAmazon Lendingが主力だ。マーチャントが同意すると、アマゾンが保持するビジネス・トランザクションがGSに提供され、このデータを活用した信用審査により、最大100万ドルのクレジット・ラインが設定される。返済はマーチャントの口座からの自動引落しだ。

マーチャントの社員向けには、アメックスとの提携によるコーポレート・カード(アマゾン・ビジネス・プライム・カード)がある。消費者向けと同様のリワードが付与されるほか、経理要員が少ないSMB企業向けに各種経費処理ツール(経費申請書類の作成や経理システムと連動した自動仕分け機能など)が提供される。社員の出張の際には、アメックスのグローバル・ネットワーク・サービスが利用できる。
 

■ その他の大手テクノロジー企業の取組み
アマゾン以外の大手テクノロジー企業も金融サービスを強化している。アップルの場合、ゴールドマン・サックス銀行との提携によるApple Cardは640万枚発行されており、2021年には家族がApple Walletでカードを共有できる「Apple Card Family」が追加された。アップル製品の購入の際には、BNPL(Affirm/AfterPay)の利用に加えApple Cardによる分割払い(日本と同様だがアメリカでは珍しい)も可能だ。今後「Apple Pay Later」や「iPhone Subscription」が登場する可能性もある。

その他、Facebookの仮想通貨リブラやGoogleの銀行口座Google Plexは、中止されたものの興味深い取り組みだった。金融機関が黒子となって提供される金融サービス(エンベデッド・ファイナンス)は、フィンテック企業向けのイメージが強いが、米国では大手テクノロジー企業各社が積極的に取り組んでいる。この分野の動向に引き続き注目しておきたい。