BNPLとクレジット・スコア:新時代の信用審査のあり方

米国ではBNPL(後払い決済)利用が急増、延べ利用者数は1億人、利用金額は1000憶ドルに達したとの試算も出ています。BNPL利用が増えるに従い、その利用履歴(利用額や回数、返済状況など)をデータベース化して、個人のクレジット・スコアに反映するべきではないかとの論議がBNPLベンダーとクレジット・ビューローの間で始まっており、監督官庁であるConsumer Financial Protection Bureau(CFPB)も強い関心を持っています。現時点における論議をまとめてみました。


■ クレジット・スコアとBNPLの信用審査
米国では、1970年に施行されたFair Creidt Reporting Actにより、金融機関と小売業は、個人のローン申込みやその支払い状況をクレジット・ビューローへ報告する義務がある。更にクレジット・ビューローは、それのデータから個人の信用度を算出、「クレジット・スコア」として金融機関などに提供している。スコアには複数の計算方式があるが、いずれも以下のような要素を考慮して300点から850点の間で点数が算出される。概ね670点以上なら「Good」、800点以上なら「Excellent」と考えられている。
・返済履歴(遅れが無い/少ないほど良い)
・信用枠に対する借入割合(30-50%以上だとマイナス要因となる)
・信用履歴データの期間(長いほど良い)
・クレジットの種類(住宅/自動車/クレジット・カードなど、種類が多いほうが良い)
・新規融資の申込み状況(頻繁でないほうが良い)

クレジット・スコアは広く活用されているが課題もある。例えば、履歴データが無い/少ない消費者(若年層や渡米したばかりの移民など)はスコアを計算できないため、米国成人2億5000万人のうち約20%が算出不可となっている。また、過去の失敗(支払いを忘れたなど)に点数が引っ張られる点も問題視されている。このため、以前から報告義務のあるデータ以外(オルタナティブ・データ)を活用して、クレジット・スコアがない/点数が低い中から与信可能な消費者を見い出す試みが行われてきた。

BNPLを推進しているベンダー各社(Affirm、Afterpay、Klarna,など)では、名前/生年月日/社会保障番号下四桁/メール・アドレス/携帯電話番号などのオルタナティブ・データだけで、即時審査を行なう。その手軽さとにより事業が急拡大した。各社の信用審査アルゴリズムは非公表だが、利用者の多くがクレジット・カードが持てない消費者層だと考えられており、携帯電話やメール・アドレスの利用状況で審査していると考えられている(クレジット・スコア利用は最小限だろう)。


■ 信用情報融合への取組み
このように、現在、金融機関が利用するクレジット・スコアとBNPLの与信方法は別体系となっているが、以下のような視点から、これらを融合させる取り組みが始まっている。
(1)クレジット・スコアが無い/低い消費者がBNPLを利用し適切な返済履歴を残すことで、良好なクレジット・スコアを獲得し適切な金融サービスを享受できるようになる。
(2)不適切なクレジット履歴を持つ消費者が、BNPLを利用することを防ぐ。

2022年初、クレジット・ビューロー大手のTransUnionとExperianは、BNPL利用に関するデータ提供サービスを発表した(Experianでは「The Buy Now Pay Later Bureau」の名称も発表)。いずれも、BNPLベンダ―各社からユーザーの利用残高/支払い状況に関するデータの提供を受け、必要に応じて金融機関へ提供する。現時点では、通常のクレジット・スコアとの融合は行わず、別サービスとなる。

一方、Equifaxは、クレジット・スコアにBNPLの利用状況を反映させる融合サービスを提供すると意向表明しており、トライアルでは、BNPLの返済状況が良好の場合、スコアが13点加算されたとしている(詳細は未公表)。


■ 今後の方向
今後もBNPLの利用データをクレジット・スコアに反映する様々な試みが行われると思われるが、時間がかかるとみる識者もいる。背景として、BNPLには、クレジット・スコアの計算にマイナス評価となる特性が包含されていることがある:
・それぞれのローンの利用期間が短い(2週間毎4回払の場合、6週間で支払いが終了する)。
・クレジット枠の申請が買い物の都度頻繁に生じる。
・申請する信用枠と購入金額が同一なので、枠を100%を使い切ったとみなされる

一方、CFPBでは、景気後退や金利上昇の懸念もある中、引き続きBNPL利用が増加すれば、社会全体で信用度の低い消費者の負債が増える可能性が高いとの認識も持っており、何らかの歯止め策が必要との立場だ。クレジット・スコアそのものの見直しにつながるのかもしれない。BNPLとクレジット・スコアの一本化がどのように進むのか、引き続き注目しておきたい。
 

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